大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)208号 判決

上告人

(原告・控訴人) 坂本三治郎外一名

被上告人

(被告・被控訴人) 兵庫県外一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

上告代理人大白慎三、同吉本登の上告理由について。

日本国憲法の下においては、税法が特定の税種の賦課について或は月割若しくは年割の方法を採用しても、その当否は立法の過程において審議決定せらるべきものであつて、租税の賦課方法等は一に法律に基いて定めるところに委せられていると解すべきことは当裁判所の判例とするところである。(昭和二八年(オ)第六一六号同三〇年三月二三日大法廷判決。)されば旧地方税法(昭和二三年七月法律第一一〇号)五三条一項が地租の賦課期日を四月一日と定め、同条二項が同法一〇条所定の月割計算を地租について適用しないこととした結果四月一日現在の納税義務者が当該年度の地租全額について納税義務を負担することになつても、何等違憲のかどがないことは前記判例に徴して明である。(以上論旨第二点について。)従て右立法の趣旨を地租の徴税上の便宜によるものとした原判決は結局において正当であつて所論の違法はない。(以上論旨第一点について。)されば論旨は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)

上告代理人大白慎三、同吉本登の上告理由

第一点 原判決はその理由において「控訴人等は、右税金の課税客体たる本件不動産が賦課期日(昭和二十三年四月一日)以後である同年六月二十四日国の所有に帰し控訴人等の所有物でなくなつたのであるから、その翌月より翌二十四年三月末日まで九ケ月分の右税金は被控訴人等において法律上の原因なく利得したものであると主張するから、その当否を案ずるに地方税法(昭和二十三年法律第百十号以下同じ)第五十三条第二項によると地租(従つて地租割として課せられる都市計画税及び地租附加税)については同法第十条第二項は適用せられないのであるから、本件土地について昭和二十三年度の地租の賦課期日たる同年四月一日において控訴人等がそれぞれの所有者であつた以上、控訴人等においてその年度の右地租等の金額を納付する義務があるものといわねばならぬ(同法第五十二条第一項第五十三条第一項参照)。控訴人等は右第五十三条第二項が第十条第二項を適用しないのは通常納税義務者の変更した場合を予想しているのであつて、本件の如く課税客体たる土地が国の所有となりそれ以後は課税客体となり得ない場合においては、右第五十三条第二項の適用なく同法第十条第二項の原則規定によるべきであると主張するが、右第五十三条第二項第十条第一、二項と前示第五十二条第一項、第五十三条第一項等を合せて考えて見ると、地租についてはいやしくも賦課期日に課税客体たる土地の所有者である以上その前後の所有関係の如何にかかわらず、従つて本件におけるように後の所有者に納税義務のない場合においても、その年度の税金金額を納付する義務あるものとする法の趣旨なることを看做するに足る。なお同法第十条第三項は第一項の地方税の賦課後土地等の所有者に変更があつたがその土地等が課税客体たることに変りのない通常の課税客体承継の場合についてのみの規定と見るべきであるから、これを根拠としてその他の場合をも含めて規定している同条第一、二項をも課税客体の無税でないことを前提とするものなりとの控訴人等の見解は採用出来ない」と断じ、本件につき右地方税法第五十三条第二項を適用し同法第十条第一項及び同第二項を適用すべきでないとし、更に「しかして法が右のような趣旨の規定を設けたゆえんのものを考えて見るに地租、家屋税(同法第五十八条第二項参照)の課税客体たる土地家屋のようにその所有者(納税義務者)の変動の相当激しいことが予想されるものについてその変動を遂一調査し、これに基いて前示地方税法第十条一、二項の場合のように月割を以て納税義務を定めねばならぬとすれば、納税者個々の側より言えば合理的な処置ではあるが、多数の人を相手とする徴税技術上より見るときは煩瑣に堪えないところであつて、これを強いて遂行せんとすれば多大の時間と労力を要し延いては租税徴収費用の増大を免れないことはまことに明らかである ここにおいて法は多少の不合理を忍んで前示説明のような趣旨の規定の下に税収入の簡便と徴税費用の節約を期したものと見るを相当とする」と判断しているが、右地方税法第四十六条第一項によれば地租、家屋税の外に道府県民税、特別所得税、鉱産税、入場税、酒消費税、電気ガス税、鉱区税、船舶税、自動車税、軌道税、電話加入税、電柱税、不動産取得税、木材取引税、漁業者税、狩猟者税、遊興飲食税、入湯税等があつてこれ等は何れも同法第十条第一、二項の適用を受けることは法文上明白である。しかして原判決は前示の通り土地家屋のようにその所有者(納税義務者)の変動の相当激しいことが予想されるものについては、その変動を遂一調査し、これに基いて同法第十条第一、二項を適用し月割を以て納税義務者を定めねばならぬとすれば、納税者個々の側より言えば合理的な処置ではあるが、多数の人を相手とする徴税技術上より見るときは煩瑣にたえないところであつて、これを強いて遂行せんとすれば、多大の時間と労力を要し延いては租税徴収費用の増大を免れないことはまことに明らかであるというけれ共、前陳地方税法第四十六条第一項に列記してある税種目の中で道府県民税、事業税、特別所得税等については土地家屋の所有者以上に納税義務者の多人数で而も変動の激しいことは当然予想せられるのに拘らず、地租及び家屋税(同法第五十三条第二項同法第五十八条第二項)のような除外規定を設けていない点から見ると原判決の言う処の所謂税収入の簡便と徴税費用の節約云々との理由は全然でてこないのであつて、原判決はこの点に於て理由不備又は審理不尽の違法がある。

第二点 原判決はその理由に於て「して見ると右の程度の不合理は徴税に特殊なる技術上避け難い結果といわざるを得ないところであつて、大局から見て是認されるべきである。そしていわゆる財産権不可侵の原則も、公共の福祉のためある程度の制約を受くべきことは憲法第二十九条第二項によつて明らかであるから、前段説明のような必要によつて規定された地方税法第五十三条第二項等の有效なることはもちろんである」と判示しているが、徴税に特殊なる技術上避け難い結果といわざるを得ないし、大局から見て是認せらるべきだと言つているが、徴税上特殊な技術上避け難い結果の発生するのは第一点に於て陳述した通り地租及び家屋税に限つたことではなく他の税種目でも同様である。要するに地方税法第五十三条第二項は全然無效の規定であつて、若しこれを適用せんとせば憲法第二十九条に反するものと言わねばならない。(第一審における上告人の昭和二十五年二月八日付及び同年三月七日付及び第二審における上告人の昭和二十六年二月八日付各準備書面参照)

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